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小川永さんの記録

MAMUT-2A
1-2次破砕
MAMUT-3A
摩鉱・浮選・精尾鉱
MAMUT-4A
ルハンダム・補助部門

マムート選鉱場の設計 (日本語版&英語版PDF)
選鉱機器仕様書 設計計算書
破 砕
設計計算書
摩 鉱
設計計算書
浮 選
設計計算書
精 鉱
設計計算書
尾鉱・用水
設計計算書
その他
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MAMUT-2A 選鉱場:破砕工程   印刷用(pdf)

1)建設中のサイトの状況(1974年頃?)

【解説】最左端奥が採鉱事務所、中央やや左の塔が生コン製造用のバッチャープラント、
その手前が車両、重機修理工場、中央やや左の高い建物が2,3次破砕場、その手前の横長な建物が摩鉱、浮選場である。右奥の樹木の無い部分は工事用の採石場である。

【蛇足】当初、摩鉱浮選場は左の谷の左側斜面に建設予定であったが、地滑りのため設計変更を行いこの配置となった。この谷は採鉱の剥土作業で出た表土で埋め立てられ、機械工場、倉庫、精鉱処理場の用地となった。マレーシアの5箇所ある国際空港の一つである。現在は成田や関空から週便直行便があるが、当時は香港やシンガポール経由で、便によっては香港で一泊の旅であった。

2)建設中のサイトの状況(1974年頃?)
【解説】左手奥の赤い鉄骨は、2,3次破砕の産物を貯鉱する粉鉱パイルの屋根、右の長屋群は建設労働者用宿舎、手前の丸い掘削跡は選鉱廃滓を処理するシックナーの側壁を構築するためのものである。

【蛇足】シックナーの直径は106mで、底は工事費を節約するため、周辺と中央部だけコンクリートを打設し、残りの部分は粘土をブルでタンピングしただけで済ました。操業開始後、少々水漏れがあったが2,3日で止まった。側壁は通常、円形とするが、多角形とした。廃滓はここで用水を回収し、濃縮された泥が16km を流れ下り、ルハンダムで堆積処分された。
3)選鉱フローシート
【解説】選鉱処理工程の流れを示したもので、左上の1次破砕に始まり、下中央のルハンダム、右下のウスカン精鉱積み出し港で終わっている。

【蛇足】合板1枚に、選鉱場の片隅で油絵具を使って描き上げた。2週間くらい掛かったように記憶している。従業員の教育用のため、実際のイメージに近く設備を配置したり、一部の断面を見せて理解を助けるように苦心した。時々、総合事務所に運び出されて来客に対する説明にも流用された。
4)操業中の選鉱設備(1975年)
【解説】一次破砕は見えないが、ほぼ全景が見渡せる。左上から、用水タンク、発電所、粗鉱パイル、2,3次破砕、粉鉱パイル。摩鉱、浮選場、摩鉱、浮選場、その右の赤屋根は石灰プラント、粉鉱パイルの左、白い建物は精鉱脱水場、その横の赤屋根は精鉱貯鉱場、中央やや左は分析所である。右下は尾鉱シックナーである。

【蛇足】粉鉱パイルは、屋根が中央にしか無いが、これは外国で先例があり、そのアイデアを頂戴した。裾の部分は普段動かないのでこれで十分であった。コンベヤの乗り継ぎも、当初の設計は直角であったが、鋭角にしてコンベヤの本数を減らした。
5)1次破砕設備
【解説】写真左の見えない部分にある露天掘りピットからダンプトラックで運搬されて来た鉱石がここで破砕される。タンクは重機の燃料タンクである。

【蛇足】一般的にトラック輸送はコンベヤ輸送よりコスト高になるため、1次破砕場はピットに近い方が有利であるが、近すぎると発破の際、被害を受けるので位置の選定は、非常に重要な作業である。近頃は移動式の1次破砕場をピットの中に設け、鉱石を積んだ実車は下り専門、選鉱場までの運搬はコンベヤにする設計もある。
6)1次破砕鉱石投入状況
【解説】1次破砕は2方作業で、処理能力は約1,300t/hである。35tトラックだと毎時平均37回の投入が必要である。常時1台か2台のトラックが順番待ちの待機状態であった。
操業開始当初は、粘質鉱や、想定外の大塊の混入で時々トラブルが発生した。

【蛇足】最大径1.5mの鉱石が、破砕3段、摩鉱2段で最終的に1mmの1/10よりも小さくなるまで粉砕されるが、砕かれる瞬間が直接目で見ることが出来るのは、全工程の中で 1次破砕だけであった。そのため見学者からは、興味を持って眺められ、好評であった。
7)資材倉庫とNo.2コンベヤ
【解説】1次破砕で処理された鉱石は、エプロンフィーダー、#1コンベヤを経て、#2コンベヤに乗り、約200m離れた粗鉱パイルに貯鉱される。建物は備品倉庫である。

【蛇足】#2コンベヤは約230mあるウスカン港の#4船積みコンベヤに次いで長く、高負荷のため唯一ピアノ線の芯体を使用し、最大径350mmの人頭大以上の鉱石を運搬する能力がある。スティールコードベルトは引張り強度は高いが、縦裂きに弱い欠点がある。長いコンベヤには、機側に安全スイッチを設け、緊急時に設備が即時停止できるようにした。
8)粗鉱パイル
【解説】粗鉱パイルは採鉱からの鉱石供給の中断、下流工程の休止や処理能力の不整合に備えるもので、実可動部分で約7,000tの貯鉱能力がある。手前の建物は2,3次破砕場のコンベヤ設備の一部である。

【蛇足】操業開始当初、粘結鉱のために抜き出しに難渋したが、抜き出し口の上に鋼製ホッパーを取り付けることで解決した。屋根を省略したことで、大雨の時、地滑り現象を経験した。ちなみに年間降雨量は約3,500mmで大台ケ原なみであるが、降雨が雨季に集中するので、豪雨被害は頭の痛い問題であった。
9)2,3次破砕コーンクラッシャ
【解説】コーンクラッシャーは、名前の通り円錐型の頭部が首振り運動を行い、底抜けの擂り鉢をひっくり返した形の固定部との間で鉱石を砕く機械である。頭部の形状で比較的荒砕きの2次破砕に向いたスタンダード型と,細かく砕く3次破砕用のショートヘッド型がある。頭部の径で機械のサイズを示すのが慣例で、いずれも7ft=2.1mである。

【蛇足】2,3次破砕で人頭大の鉱石が、小梅くらいの大きさに破砕された。側面に沢山あるスプリングは鉄片を噛みこんだ際の安全装置で、上部の円柱は出口の間隔を調節するための油圧装置である。
10)2,3次破砕振動スクリーン
【解説】鉱石をふるい分けるためのスクリーンで2次用は、70mm角穴の上段と28mm角穴の下段の2段2台で構成されている。3次用は、22mm角穴の1段3台である。2次上段の網上産物は2次クラッシャーに、2次下段と3次スクリーン網上は3次クラッシャーで砕かれた後、再度3次スクリーンに繰り返される。2次下段と3次スクリーンの網下は共に粉鉱パイルに送られた。

【蛇足】操業開始当初、地表近くの風化した粘土分の多い鉱石のため、網の目詰まりや、ホッパーの閉塞が多発した。そのため一時的に水洗スクリーンによる鉱石洗浄設備を使用した時期があったが、風化鉱の減少に伴い廃止された。採掘が進み。鉱床深部の鉱石になると改善された。
11)2,3次破砕制御室
【解説】グラフィック・パネルで機器の運転停止状況を赤緑の表示灯で示し、中央制御室からの自動順序起動、順序停止と現場の機側スイッチによる手動起動停止を行えるようにした。異常事態は警報ブザーと表示灯の点滅で表し、警報ブザーを切ってもトラブル解消まで表示灯の点滅が続くように設計されていた。赤ボタン緊急用非常スイッチである。

【蛇足】左手前の円筒は業務用掃除機である。集塵装置が設置されていて、労働環境はそれほど劣悪ではなかったが、毎日の掃除は必要であった。

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MAMUT-3A 選鉱場:摩鉱・浮選・精尾鉱工程   印刷用(word pdf)

1)摩鉱場全景
【解説】摩鉱は以前「磨鉱」と書き、鉱石を粉砕する工程をさす。径の小さい右2台がロッドミル、左2台がボールミルである。奥の横向きが再摩鉱ボールミルである。中央の穴の下にポンプ座がある。各ミルは当時神戸製鋼所鰍ェ製作した最大級の装置であり、同期電動機とエア・クラッチで駆動された。

【蛇足】ロッドミルは粉砕媒体のロッドの補給、磨耗したロッドの引き抜きに設備を休止しなければならず、設備稼働率が落ちるので最近の設計ではあまり採用されていない。マムート鉱床には、母岩の一部に破砕の難しい蛇紋岩があり、その対策として破砕系統の補完設備の意味合いでロッドミルが採用された。
2)摩鉱場制御設備とロッド補給装置
【解説】通常、設備全体が自動順序起動、自動順序停止で運転されるが、まず同期電動機だけを起動し、同期速度に達した後、エア・クラッチをつなぎミルを起動した。ミルの軸受けは、荷重のため休転中に油膜が切れ、金属どうしが接触する恐れがあるので、起動直前に油圧ポンプでミルを持ち上げ、潤滑油が廻って吐出圧の低下を検知しないとエア・クラッチが作動しないしくみになっていた。

【蛇足】手前にロッド補給装置が見える。今は解体された明延鉱山の神子畑選鉱場では、作業員が爆弾三勇士のように担いで投入していた。ロッド補給装置に載っているロッドは1本250kgもあり、人力では無理であった。
3)サイクロン分級設備
【解説】サイクロンは一般的にはインド洋で発生する台風を指すが、鉱山用語では鉱物粒子を遠心力でサイズ分けする装置を言う。ミルで砕かれた鉱石を粗粒と細粒に分け、細粒は浮選系統へ、粗粒はボールミルに繰り返される。

【蛇足】通称内径は26inで、各系統に8台設置され、そのうち1〜2台が予備であった。三菱金属製もあったが、12inが最大で採用には至らなかった。当時日本の外貨事情は悪く
通産省は設備輸入に悉く難色を示したので、輸入許可を得ることが難事業であった。
4)No.2ボールミル
【解説】計画段階当初、修理や操業管理上の便宜や故障時のリスクを勘案して摩鉱・浮選系統は3系列で設計されたが、建設費の面から2系列に変更され、当時主流になっていた1系列1万t/日の処理能力とした。

【蛇足】直径4.8m、長さ6.9mのミル内には約225tの鋼鉄球が入っていて、2,500kwのモーターにより毎分約14回転の速度で回り。パルプと呼ぶ鉱石の泥スープを作っていた。内張りがゴムであったので騒音はそれほど酷くなかった。
サイクロンは一般的にはインド洋で発生する台風を指すが、鉱山用語では鉱物粒子を遠心力でサイズ分けする装置を言う。ミルで砕かれた鉱石を粗粒と細粒に分け、細粒は浮選系統へ、粗粒はボールミルに繰り返される。
5)粗選系浮選設備1
【解説】浮選は、浮遊選鉱を略した用語で、細かく粉砕した有用鉱物粒子だけを薬剤の力で空気に接着させて水面に浮き上がらせて選別する技術である。その操作には、収率良く粗取りする「粗選」と、粗選で取れた産物の品位を出来るだけ高める「精選」、粗選の取り残しから更に回収する「精掃」とがある。当初粗選系は2列があり、後に精掃系が追加された。

【蛇足】平成18年に豊羽が閉山し日本の国内鉱山から浮選技術は無くなったが、資源回収技術として製錬かすからの金属回収や、故紙からの脱インクに応用されている。昔のちり紙には、活字が時々残っていたが、今のティッシュやトイレットペーパーは綺麗である。
6)精選系浮選設備2
【解説】浮選は機械まかせの技術であるので、浮いた産物は玉ばかりとは行かず、どうしても石が相当に混じることになる。それで一度浮いた玉と石を更に選別し、何回も繰り返して最終産物とする。その工程が精選である。精選は通常2,3度繰り返し、精選かすは前段に繰り返すか捨てられる。

【蛇足】人物は尾去沢出身の木村利七さん、現地の通称は、「お父さん」、言葉の通じない土地での3交代勤務ご苦労さんでした。まだ国内に残っていた鉱山から係員や技能工が現地従業員の指導員としてかき集められ、教育・訓練の任に当たった。
7)浮選系制御設備
【解説】浮選機は攪拌機2台に対してモーター1台であったが、2区か3区をまとめて一度に起動停止させた。起動時は下流から上流に向かって中央順序起動し、停止時は逆に上流側から順序停止させた。ポンプは床下で監視が行き届かないため機側制御とした。

【蛇足】通常停止の場合、給鉱を止めて水運転を行い、負荷が軽くなってから機械を停止させるが、停電の場合は、それが出来ないので浮選機の緊急排出弁を開いて、鉱石を排出しておかないと、鉱石が沈殿して再起動が不可能になった。いずれにしても停電は大変!
8)今泉教授視察
【解説】操業開始間もなくの頃、海外鉱物資源開発梶i略称:海鉱発)の顧問をされていた今泉東大名誉教授が來山視察され、いろいろ貴重なアドバイスを頂いた。写真は浮選場でのスナップである。

【蛇足】今泉名誉教授は、平成12年8月に他界され、元麻布の善福寺で葬儀が営まれた。
9)精鉱積込み状況
【解説】浮選精鉱はシックナーで濃縮、フィルターで水分8%に脱水された後、精鉱鉱舎に貯鉱される。脱水精鉱は、ローダーで10tトラックに積み込みウスカン港に運搬された。

【蛇足】フィルターの瀘布が目詰まりすると、水分が高くなるが、山元、ウスカンの精鉱鉱舎で船が来るまでの間に十分乾燥した。むしろ風による飛散欠減が心配であった。
計画段階で、20tトラックも検討されたが、価格が10tトラックの2倍以上なこと、当初心配されたドライバーの求人難もそれほど酷くはないことが分かって10tトラックに決定した。
10)尾鉱流送設備
【解説】選鉱かすは尾鉱と呼ばれるが、これをシックナーで水分50%以上に濃縮し、回収した上澄水は選鉱場の用水として循環使用された。濃縮尾鉱は450mm径の鋼管で16km離れたルハンダムに送り、堆積処分された。落差の大きな部分を当初、新日鉄鞄チ製の特殊鋼樋で計画したが、期待した耐磨耗性能が得られず、失敗に終わった。その後、この部分は通常の配管とドロップタンクに切り替えられた。棒状のものは排気管である。

【蛇足】米国のベクテル社がエルツベルクで配管と絞り機構で精鉱流送設備を計画したが、やはり磨耗のため失敗している。新日鉄も日本で実験はしていたが、実態とかけ離れた条件設定であったと思われる。ある外国のゴムライナーメーカーに、お前の計画条件はクレージーだとけらけら笑われた。流送は安いけど、磨耗と閉塞がコワイと言うお話です。
11)尾鉱流送配管
【解説】平坦部の流送は電縫管により1/50の勾配で行われ、あまり大きな問題はなかった。
管による満管流の流送では、想定速度と実際の速度には大きな相違はないが、樋の場合は、
濃度、粒度、粘性などの変動で時として予測を外れることがある。

【蛇足】電縫管は引抜き鋼管と違い、鉄板を丸く折り曲げて、合わせ目を電気溶接で接着して作るので、価格が安い。肉厚が大きく取れるのでスラリー流送に向いている。

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MAMUT-4A 選鉱場とその前半工程   印刷用(word pdf)

1)ルハンダム築堤用配管とサイクロン配管設備

【解説】予め造成した基礎堤の上に、2系列の配管を作り、それぞれに15inサイクロンを10台ずつ取り付け、交互に運転と移設延長を行った。

【蛇足】基礎堤は周辺で採取した土砂で造成し、間に粘土をサンドイッチ状に挟んで水漏れを防止した。

2)築堤サイクロン設置状況
【解説】サイクロンは、サイズ分けと濃縮を兼ねる目的で、簡単な既製品足場材で構築した枠組みに取り付けて、移設が容易にできる構造とした。粗粒部は築堤のかさ上げに使用し、余れば堤体の外側に堆積した。細粒部は築堤の内側部分から放流した。

【蛇足】流入部と細粒部用配管は、軽くて、衝撃や磨耗に強いポリエチレン管を採用した。
バルブも安価で耐磨耗に優れたピンチバルブを使用した。
3)ルハンダム下流部
【解説】自然地形をうまく利用してかぎ状の基礎堤を造成した。写真では見えないが右手前の丘の上にタンクを置き、サイクロンへ給鉱した。

【蛇足】基礎堤工事は平成4年に他界した梛野宏君の担当であった。ブルドーザーでの造成工事を監督していた豪快で、今で言うメタボリックな彼の汗だくの顔が思い出されます。
4)ルハンダム上流部
【解説】ダムの上流では、尾鉱中の鉱物粒子が沈殿し上澄みの池ができる。その水は、域内に降った雨と一緒に、画面で左右に走る鉱山で言う「尺八」、現地では「ボックス・カルバート」と呼んだ放水トンネルでダムの底を通過して下流で放流された。堆積が進むと尺八の穴は次々と塞がれ、上流側に移動して行く。画面中央に鉱山からの送泥管路が望見される。ダムの外側の雨水は、域内に入らないように山腹水路で一般河川に放流した。

【蛇足】上澄水は中性で、魚が結構泳いでいたし、放し飼いの水牛が無断で入り込んで水浴を楽しんでいた。時たま泥に足を取られて死ぬ水牛もいた。死んだ水牛はすぐ腐り、一週間で骨になったが、強烈な悪臭を放つので、見つけ次第ブルで土砂を掛けて埋葬した。
5)用水タンクと発電所
【解説】サバ州公共電力と同一規格のディーゼル発電所が設置された。用水は近くのマムート川、バンバンガン川から、左上の用水タンクにポンプで取水し、約53,000t/日の需要を賄った。

【蛇足】サバ州の発電所が故障した時、予備品のクランクシャフトを貸し出して急場を救ったこともあった。バンバンガン川のポンプ所は、6kmも離れていたので、運転員が一人でいると幽霊が出ると言って怖がり、退職してしまったのは痛かった。
6)補助管理設備
【解説】総合事務所、機械修理工場、備品倉庫が、選鉱場横の谷間を埋め立てた場所に建設された。予備品の種類、点数を減らすため極力、規格を統一し、浮選機などは粗選と精選が同一の駆動部が使用できるアジテァ型を採用した。

【蛇足】電力ケーブルや、ゴムライニング、タイヤなど強い紫外線と高温のため、鰐皮のように劣化し、ひび割れるので注意深い管理が必要であった。
7)試験室要員
【解説】鉱石の性状変化に即応するため、浮選場の片隅に試験設備を置き、簡単な試験を行って、浮選条件を変更した。左端の機械はアジテァ型の浮選試験機である。作業員は中学卒のサバ州ではれっきとしたインテリエリート達であった。

【蛇足】制服の作業衣など支給していなかったので、近頃の日本の大学生みたいに、てんでに好きな格好をしている。試運転当時、3ヶ月掛けて訓練した中卒エリートが24時間の連続3交代運転が始まった途端、殆ど辞めてしまったのにはがっかりしました。
8)キナバル落日
【解説】標高4,095m東南アジアの最高峰、キナバル山の花崗岩むき出しの山容はマムート鉱山の8kmキャンプ、バトゥ・ドゥア宿舎、ラナウの町のどこからでも良く見えた。地元民カダザン族の死霊が集まる聖地、言わば天国を見ていた訳である。しかし眺望の良いのは、乾季の朝方だけで、午後は曇り後雨、夕焼けは滅多に拝めなかった。雨季には雨が何日も降り続き、霧で山どころか、数m先も見えないことがあった。

【蛇足】夕方晴れた時の夕焼けは素晴らしいが、低緯度で太陽の動きが早いので、ほんの数分で真っ暗闇になる。綺麗だなと思って部屋にカメラを取りに帰って戻っても、後の祭り、この点はKKの夕景も同じであった。
9)2007年現在マムート・ルハン地区衛星画像
【解説】解像度が悪いのではっきりしませんが、約6,800m上空から見た画像で、右上にルハンダム、左中央に露天掘りピットの跡らしきものが、写っています。

【蛇足】建設時代にアメリカの業者が、当時の白黒衛星画像を見せて、おまえの所のプロジェクトが写っているよと教えてくれました。アクセス道路や建設サイトが綺麗に写っていてびっくりしたことを憶えています。

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MAMUT-ACコメント2 建設の足取り   印刷用(word pdf)

1)1次破砕基礎工事(1971年)

【解説】谷の一角を利用して地上1階地下5階の1次破砕設備を構築した。ここで破砕された鉱石は、#1、#2コンベヤで地下通路を経て、粗鉱パイルに運搬された。左下にトンネルの出口が見える。

【蛇足】建設初期の不慣れな段階で,かつ高温多湿の気候のためバッチャープラントの運転が順調に行かなかったので、コンクリートの打設にはトラブルが多く、地下水の漏水もあり、工事には苦労が絶えなかった。

2)2,3次破砕基礎(1973年)
【解説】手前側から2次破砕機2台、3次破砕機3台が一直線に並んでいた。破砕機の上に鉄骨架台が組まれ、その上に5台の振動スクリーンが設置された。建屋は完成していないが、既に設置されていたクレーンを使って、機械の据付が並行して行われている。

【蛇足】破砕機の下側にはコンベヤを設置するので、破砕機の基礎は高床式となった。そのため想定外の共振が発生したが、一部基礎の補強や、手摺の振れ止め工事を行って解決が計られた。
3)2,3次破砕建設風景
【解説】2,3次破砕建屋の壁が貼られ粉鉱パイルの屋根工事が始まっている。建屋の壁は、亜鉛引き鉄板であるが、一部採光のため一部をプラスチック製としている。

【蛇足】粉鉱パイルには、降雨による崩落を防ぐ目的で中央部分だけ屋根を掛けたたが、屋根板が通常規格より長い長尺物であり、梱包強度も不足していたため、運搬には非常な困難が伴った。
4)ミルドラムギヤー
【解説】ミル本体は勿論、駆動装置も長大、超重量物であったため、幾つかに区分して運搬された。機器は破損や盗難を防ぐため、木箱で厳重に梱包した。

【蛇足】ミルを回転させる歯車は、磨耗を防ぐため、時間が経つと乾燥して固まる特殊な潤滑油を定期的に圧縮空気で吹きつけて保護した。自動潤滑装置が開発される昭和30年代以前では、ミルの休止時に、ピッチ系の固い油を温めて溶かし、刷毛で塗ったものである。
5)建屋工事
【解説】選鉱工場建屋は原則として鉄骨構造、亜鉛引き鉄板葺きで、外装は無塗装とした。鉄骨は工場加工とし、現場で高抗張力ボルトを使って接続した。

【蛇足】軒高の高い建屋の工事は、現地で一番多くおとなしい「カダザン族」の作業員では無理で、海岸付近に住み、高い椰子の木に裸足ですいすい登れるような精悍で元気の良い性格の「イバン族」や「バジャウ族」が適していた。建設中、高所からの転落事故は、全くなかったと記憶している。
6)工期中期 遠望
【解説】主要建屋はほぼ形を整え、内部の機器据付や電気工事が進んでいる時期である。露天掘りの剥土作業の捨石(ズリ)による谷間の埋め立ては、まだ進んでいない。

【蛇足】マムート川は、選鉱場のある尾根で左右に分岐し、
建設キャンプの用水は、右側の本流から取水されていた。大雨でパイプが流され、雨季なのに水が無い悲劇も何度か経験した。
7)骨材原石場
【解説】道路に敷く砂利や、コンクリート骨材用の砕石、砂の原石を採る場所で、マムート川の左岸にあった。砕石や砂は破砕機、2台、ロッドミル1台で製造した。左下に砕石パイルが見える。

【蛇足】砕石プラントの基礎を作る際、日本人指導員が何時間も掛かって組み上げた鉄筋を現地作業員が、誤って崩してしまい、激怒した監督さんが現地作業員を追い掛け回す一幕もあった。
8)摩鉱場基礎
【解説】各ミルの基礎の打設状況を示す。中央の鉄骨足場はポンプ座、柱の手前に用水配管が見える。

【蛇足】750t/時の鉱石に対し約2倍の水量が必要なので、粉砕・分級・冷却用水として毎時1,500tの水が必要であった。日本人は一般的に1日平均0.25tの生活用水を使用しているが、ここでは1時間で6千人分の水を消費していたことになる。
9)浮選場床工事
【解説】浮選場の床は、できるだけ段差を無くし、巡回や監視に支障がないように計画した。床下にはポンプ座があるので、格子状の床材を採用して、ある程度下が見えるように、かつ通気性を保つようにした。

【蛇足】初めて海外の選鉱場に出張した時、グレーティングやエキスパンドメタルと呼ぶ金属格子床の目が大きいので、その隙間から足が落ちそうな恐怖を感じた。あらためて白人との体格差を思い知らされたのを覚えている。
10)浮選建屋から
【解説】浮選場の壁が張られる以前で、外では精鉱シックナーの基礎工事が始まっている。手前の大きな配管は浮選機に空気を吹き込むための直径1mの本管である。

【蛇足】個々の浮選機に入る空気管は直径50mmであったが、その調節バルブのハンドルを固定するナットが、丁度指輪のサイズで、現地従業員に盗まれて、指輪に加工された。
11)尾鉱シックナー基礎
【解説】選鉱で使われるシックナーの側壁は円形が基本であるが、現地の型枠屋さんには、カーブに合わせて合板を曲げ加工する技術が無く、やむなく多角形とした。多分166角形程度であったと思われる。
【蛇足】負荷の軽い下水や工場排水処理用のシックナーでは、四角形や六角形の側壁が日本でも多用されている。
12)谷間の埋め立て
【解説】露天掘りで鉱石を採掘する場合、鉱床を覆う表土や、採算に合わない低品位鉱は、「ズリ」と呼ばれ、廃棄される。その安価な捨て場の確保が起業採算に大きく影響する。谷間の埋め立ては用地のゲットを兼ね、一石二鳥であった。

【蛇足】道路の右に露天掘りピット、左の奥の方に建設事務所があった。
13)発電所遠望
【解説】工事用電力を確保する目的で、発電所工事は比較的早く部分完成が図られた。発電所の右の山が削れた部分が原石採取場、その下のタンク状のものは、2,3次破砕の負荷変動を緩和するためのサージビンである。

【蛇足】左手前の建設請負業者事務所の前には、建屋の鉄骨が仮置きされている。
14)対岸からの工事風景
【解説】機材が仮置きされている場所に右側に見える摩鉱浮選建屋が建設される予定であった。

【蛇足】この辺に多い蛇紋岩は、風化し易く、断層面は鏡肌と称する滑動しやすい性質があり、建設初期の段階で二度にわたり、豪雨の深夜に地滑りが発生した。この場所は、玉石を積んで補強したが、最終的に建屋用地としては放棄された。

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